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ちょっとした間食にセブンイレブンの「じゃがいもとベーコン」を食べていたとき、私は思った。
「ああ、私は『玉ねぎ』であり、また『わかめ』であることを願っているのだな」
と。
いきなり意味不明の書き出しだよなあと思いつつも、やはりこう言うほかないのである。じゃがいもでも、ベーコンでもいけない。「玉ねぎ」であり、「わかめ」であることが自分にとって重要なのだ。
というのも。
最近読んだもののなかに、こんな文章があった。見つけた先は「ポテト&コーンボーイ」というタイトルの短い小説で、とある本の巻末につけられた書き下ろしのものなのだが、その話の主人公はいつでも必ず食堂では「ポテト&コーンサラダ」を頼むのである(ちなみに正確には「『ヒレカツカレー(中)』と『ポテト&コーンサラダ』をそれぞれ1つずつ、いつも頼む」という設定なのだが、まあそれについては今はいいだろう。とにかく、彼が食べるサラダはいつも「ポテト&コーンサラダ」なのだ)。
ポテト&コーンサラダにはほんのすこしだけ紫キャベツとにんじんの入った千切りキャベツが敷かれていて、その上にわかめ、ポテトサラダ、コーンが信号機のように並べられている。三つの具のうちわかめだけがないがしろにされてポテト&コーンサラダという名前なのを、みちるは毎度不憫に思う。みちるはそれに真っ白いフレンチドレッシングをもったりとかけて食べる。学食の調味料コーナーには自由に使ってよいごまドレッシングと青じそドレッシングとフレンチドレッシングが大きな瓶に並べられているけれど、わかめとポテトサラダとコーンが一度に入ったサラダの場合どれに合わせてドレッシングを選ぶかは非常に難しい問題だ。すべて試してみたうえでわかめといちばん相性の悪そうなフレンチドレッシングが案外このサラダには一番合うとみちるは思う。白濁したドレッシングを纏ったわかめを箸で持ち上げるたびに、みちるはわかめに(悪く思わないでくれ、ぼくにとっては白無垢みたいなものさ)と語りかける。
書き下ろし小説『ポテト&コーンボーイ』くどうれいん・著, P ⅵ ~ ⅷ
「ポテト&コーンサラダ」のなかで「わかめ」は、なんとも言えない立ち位置にある。サラダの名前からは親切にも省かれているし、ドレッシングだって、毎度一番合わなさそうなものをかけられる。だからなんだか「最初からいないも同然」の扱いを受けているのかと思いきや、けれどみちるはいつも心の中では「(悪く思わないでくれ、ぼくにとっては白無垢みたいなものさ)と語りかけ」ている。よってそこにはやはり、無視できない「わかめ」の存在がある。
それって、と思う。それって、私が一番「ありたい姿」ではないのだろうか?
他者とまとめて考えたときの「主人公」にはいつもなれないけれど、常にエキストラなのかもしれないけれど、それでもやはりその存在は確かにあって。こうやって実体をちゃんと持っているし、小さいながらもどこかに、影響を与えた痕跡は必ずあって。
いちばん表に面した場所で、すべてを認めてもらうのは無理かもしれない。なんだかふにゃふにゃしていてどこか所在なさげで、だからときどき「いてもいなくても、同じなんじゃないか」と思ってしまうことだって、あるかもしれない。だけど、やっぱり。
「ポテト&コーンサラダ」はいつも、わかめがそこにいることを必要としている。なぜならみちるはいつもひそかに、わかめに語りかけているから。語りかける「わかめ」がなくなれば、もはやそれはもう、いつもの「ポテト&コーンサラダ」ではなくなってしまう。わかめがちゃんとそこにいるから、彼の「ポテト&コーンサラダ」だって成り立っているのだと私は思う。なお、先ほど引用した文章はそのあと、次のように続いていく。
ヒレカツカレー(中)とポテト&コーンサラダ。みちるはそれを特別おいしいと思っていない。けれど、おなじことを淡々と繰り返すと安心するのだ。
書き下ろし小説『ポテト&コーンボーイ』くどうれいん・著, P ⅷ
私も、そんな「わかめ」でありたい。べつに一番の輝く場所にいるのではないかもしれないけれど、ちゃんと「わかめ」たるものとして、存在を認めてあげられる場所にいたい。「ポテト&コーンサラダ」を構成する一員として、立派に胸を張っていたい。
……そんなことを、今日私は考えていた。食べながら「じゃがいもとベーコン」とでかでかと書かれた袋を手に取り、
「私は何気に、この玉ねぎの差し味と食感がいちばん好きだったりするんだけどなあ」
なんてことを、思いつつ。
今回引用した本
『The Best and Small Friend Woodstock ちいさなベストフレンド ウッドストック』
吉田宏子・佐藤万記・勝又七海・編, 2022年7月16日, ブルーシープ株式会社