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線は、僕を描く by 砥上 裕將
講談社 2019年7月3日
昨夜に読了(なかなか寝付くことができなかったので、眠ることは一旦諦めてこちらを読むことにしたのだ)。読み終えるまでにかかった時間は、3時間半ほどだった。
どんな本?
ひょんなことから「水墨画」を始めることになった主人公の大学生、青山霜介。
墨や絵をはじめ、水墨画を通してたくさんの人やものごとと向き合う中で心の奥底にしまい込んでいたわだかまりを少しずつ解き放ち、同時に「今、現在を生きる」ということの意味を見出していく。
心に響いた箇所の引用
この本には、たくさんの「忘れないでおきたい言葉」があった。また霜介と自分とで共通している背景点がいくつかあったため、自分自身を重ね、深く感情移入してしまう場面も何度もあった。
なかでも特に気に入ったのは、以下の2箇所だ。
「それに水墨をやるうえで何が有利な要素かって話なら、今の君が一番有利だよ」
P81
「どういうことですか?」
「何も知らないってことがどれくらい大きな力になるのか、君はまだ気づいていないんだよ」
「何も知らないことが力になるのですか?」
「何もかもがありのまま映るでしょ?」
「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」
P262
と言った湖山先生の言葉がふいに胸によみがえってた。
湖山先生はあのとき、とてもたいせつなことを教えてくれていたのだ。今いる場所から、想像もつかない場所にたどり着くためには、とにかく歩き出さなければならない。自分の視野や想像の外側にある場所にたどり着くためには、歩き出して、何度も立ち止まって考えて、進み続けなければならない。あの小さな言葉は、僕をこんなにも遠い場所に運んでしまった。
感想と思考
新しいことを知るのは、学んでそれを自分のものにするのは、とても楽しいことだ。知らなかったものごとが自分の中へとやってきて、新たに自分の一部となる瞬間は、いつもとてもわくわくする。
けれど……ときどき、考えてしまうのだ。「知ってしまった今はもう、このことを知る前などに(対象となるものごとに対して)無知だったからこそ持てていた(かもしれない)感覚や視点などは、失われてしまったんだな」と。
知識があるから、経験したことがあるから 、見えてくるものがある。それは当然のことだ。一方で、「無知であるからこそ」「素人であるからこそ」気づくことのできる点なども確かにあるだろうに、と私は思ってしまうのだ……。例えば小さい子供がなぞなぞや脳トレ要素のあるクイズなどを大人と比べていとも簡単に解いてしまったり、教師や講師などでは思いつくことのできないアイデアを生徒が出すことがあったりもする、などというのは最たる例だと思う。
とはいえやはり私は、これからも新しいことを自分の中へ取り入れ続けたい、とものすごく思う。なぜなら今いる場所にずっと留まり続けていては、永遠に同じ思考を握りしめていては、辿り着く場所へも辿り着けないだろうからだ(ちょうど湖山先生も言っていたとおりに)。その「辿り着く」場所がどんな所なのかは当然、今の自分には分かるはずもないけれど。
未来の私はどんな場所にいて、どんなものを見ているのだろう。いつか……私が今よりも大人になって、自分を形作るために描かれてきた線を、他のたくさんの人が描いてなんとか繋いできてくれた線を、振り返ったときに私は何を思うのだろう。何も知らないでいた今のこの私を、懐かしむことはあるのだろうか……。
ちなみに今回引用したのは上記の2箇所のみだが、実は気に入った部分は他にもたくさんある。付箋を貼りながら読んでいたのだが、今その枚数を数えてみるとなんと30枚もあった(笑)
また気が向いたときに読み返したりして、反芻したいなあと強く感じられた1冊だった。
2023. 3. 29 追記
その後、レイチェル・カーソンの本「センス・オブ・ワンダー」を読んだことで、絡まっていた思考がいくらか整理された。
(投稿リンク: 読書記録 – センス・オブ・ワンダー | FUTURE KEY (future-key.com) )